【バイリンガル①】バイリンガルとは?子供は簡単に言語を習得できる?
前回の投稿では、23歳まで英語が話せなかった私が、様々な情報に惑わされながらも、現在5歳と3歳のバイリンガルの子供を育てていること、また自分がリサーチしてきてまとめてきた事を皆さんにお伝えしたいと思った理由について話しました。
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今回はこれから始めるシリーズの①バイリンガルとは?(WHAT)という部分を触れていきたいと思います。
バイリンガルの定義はネットを調べればすぐに出てくるものですが、シリーズの中での認識を合わせるために、バイリンガルの定義と基準について目を通していきましょう。
バイリンガルの定義と基準はなに?
皆さんはバイリンガルに対してどんなイメージを持っていますか。
ある言語を流暢に話せるという事はどのくらいのレベルですか?どこまでのレベルが話せたら「バイリンガル」と呼べるのでしょうか。
単純に英語の意味を考えるとバイリンガルは、「bi – 二つの lingual – 言葉」ということになりますが、多くの辞典では「二つ以上の言語を流暢に話すことができる人」と定義されています。
カナダの言語教育の専門家であるJim Cumminsは、バイリンガルを「母語としての言語的な能力と、第二言語(または外国語)の高度な能力を持つ人」と定義し、コミュニケーション、認知、文化的な側面が関与していると主張しました。
他にスイスの言語学者であり、バイリンガリズムと多言語主義の専門家であるFrançois Grosjeanはバイリンガルは「少なくとも二つの言語を流暢に使用し、それぞれの言語の文化的な特徴も理解している人」または「二言語またはそれ以上の言語や方言を日常生活の中で定期的に使用すること」と定義しています。
フランソワ グロジャン他
ここで皆さんに質問です。
文法も語彙も状況にあう完璧で自由自在に日本語を操れるアメリカ人がいるとします。
ただし、彼の発音はアメリカ人の訛りが強く、喋っているのを聞いていると外国人だとすぐにわかってしまいます。
彼はバイリンガルだと思いますか。それとも「日本語は外国語として流暢」だけど、バイリンガルではないと判断しますか?
元々はイタリアで生まれ育ち、10歳でイギリスに移住した女性がいます。
彼女の英語はイギリス訛りがあり、文法も語彙も完璧です。イタリア語は毎日使っていますが、中学生くらいの語彙しかありません。
彼女はバイリンガルですか?
人種の多様性がなく、生活の中で他の言語に触れる機会が少ない日本では、バイリンガルの判断基準が非常に厳しいですよね。
いくら流暢にその言語を操っていても、少し訛りがあったり、文法に誤りがあり、日本人が日本語を話せるのと同じレベル(発音・文法・語彙など)でないとその言葉のバイリンガルではない、と判断することも多いように思います。
それではいわゆるバイリンガル話者がいる多くの国々では、みんなどのくらいのレベルの言語を話せるのでしょうか。
世界の半分はバイリンガル
実は二つ以上の言語を生まれた時から習得するという事は「珍しい」事ではありません。
それこそ世界の半分以上の国では二つ以上の言語が使われていて、これは国際化が進むにつれてどんどん増えていく傾向にあります。逆に一つの言語しか話されてない国の方が少ないのではないでしょうか。
例えば、隣国の台湾を例に挙げてみます。私が初めて台湾に行ったのは23歳の時ですが、実際行くまでは、昔台湾語が主に話されていて、今ではほとんど北京語に置き換わっていると思っていました。しかし、台北の地下鉄で案内放送は「台湾語」「中国語」「英語」「ハッカ語」の4カ国語で流れていました。多くの台湾人は中国語と台湾語の両方を日常的に使っています。
多くのヨーロッパの国でもバイリンガルであることは珍しいのことではありません。以前一人でバックパック旅行をしていた時、スイスのルツェルンの郵便局でスイス人の友達に小包を送ろうとしていた時のことです。
まだ英語もそこまで上手じゃなかった私は郵便局のおばさんが目の前で「イタリア語」「ドイツ語」「フランス語」「英語」を自由に操るのをみて感心したことがありました。
台湾もスイスも、日常生活で一つの言語だけを話す、というのはほとんどなく、2つ以上の言語を話すのは普通のことのようでした。
18歳になるまでモノリンガルの国で、日常的に一つの言語しか使ったことがない私にとって、この風景は本当に不思議なものでした。
もちろん、彼らが日常的に使うそれぞれの言語全てが我々が思うような「完璧」なレベルであるとは限りません。
しかし、それぞれの言語が、我々のいう完璧なレベルでなくても、彼らは「2つ以上の言語を文化的な側面を自在に理解し、書く、読む、聞く、話すの4つの領域が同じくらい流暢である人」という専門家の定義に一致しています。
そして、その流暢さは日常生活レベル、ビジネスが行えるレベル、アカデミックな議論ができるレベルなど、様々です。
ただ、私たちが覚えておきたいのは、言語のレベルは流動的で、ある程度のレベルの流暢さを獲得できれば、そこからは環境によってその関係性もレベルも常に変化し続けるということです。
子供の時に教えれば全部吸収してくれる?
バイリンガルが世界の半分くらいの国で割と普通のことであり、バイリンガルの環境で育った殆どの人が自然にバイリンガルになれるなら、バイリンガルになる能力は誰にでも備わっていると言って良いと思います。
そして一般的に知られているように言語習得において、子供は特に素晴らしい能力を持っています。
赤ちゃんは大人とは違って文法や語彙を別途覚えたりしなくても言葉を習得していきますからね。
下手なモンテッソーリの知識を持っていた私は、ほんの数年前まで子供の「吸収精神」と「言語の敏感期」が相まって、子供の頃から他の言語に触れていれば、自然にその言語を吸収してくれるのではないかという期待していました。
(ここではモンテッソーリの「吸収精神」と「言語の敏感期」を否定している訳ではありません)
しかし、自分でバイリンガル子育てをしてきて、実はそんなに単純で簡単なものではない事に気付きます。
ご存知だと思いますが、その間赤ちゃんは毎日大人の話す言葉を注意深く聞き、口の動きを観察しや、音に注目しながら練習を繰り返しています。
赤ちゃんが「うーうー」「バーバー」という意味のない音から「ママ」「お菓子」という意味のある言葉を発するようになるまでは約1年くらいの時間を要します。
赤ちゃんは寝ている間も、起きている間も無意識に言語の習得を莫大なエネルギーを費やしているのです。
私の子供たちを見ても、彼らが毎日どれだけの努力をして言語を習得しているかは明らかでした。今でも毎日のように大人からフィードバッグをもらいながら練習を繰り返しています。
大人が外国語を学ぶ時とは違って子供たちはまだ正確な言語のルールが確定していないため、試行錯誤しながら言語を練習し、習得していくという違ったアプローチを取ります。
つまり日々ある特定の状況の中で間違いを繰り返しながら、言語を習得するための認知的な作業を行っています。
実際のコミュニケーションで言葉の意味やニュアンスを正しく理解し、一定のレベルで言語を話せるようになる3歳頃まで、非常に長い時間と継続的な努力をしていることがわかりますね。
バイリンガルになるのは、どのくらい難しい?
もちろん言語習得において、子供たちは驚くべき能力を持っていることは否定できません。特に、子供たちは間違いに対して敏感ではなく、まだ正しいルールが確定していないため、大人とは違って自由に試行し続けることができます。
ただし、子供たちの言語習得には個人差があるので、露出される言語の量や子供の興味、適応能力によっても異なるペースで習得が進むということは理解しなければなりません。
そのため、その能力を最大限に引き出すためには適切で持続的なサポートと環境が重要で、大人と教育者が子供たちに豊かな言語環境を長期的に提供する役割を果たさなくてはなりません。
誰でも生まれながらバイリンガルになれる能力は備わっていますが、蓋を開けて見れば赤ちゃんの時から外国語を教えても、バイリンガルになる道のりはやはり簡単に短期間で達成できるものではなさそうです。
なので、そこまでの時間と努力を費やしてバイリンガルを目指す必要があるの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、周りがやっているからとか、何となく不安だから、など盲目的な理由で多くのリソースを注いだのに良い結果に繋がらないケースも多々目にします。
だからこそ、バイリンガルを目指す理由と目的の設定がバイリンガル教育の始まりに最も大事な要素だと思います。
なぜ自分の子供がバイリンガルになってほしいのか、そのWHYをはっきりさせるのです。
今回は「バイリンガル」という言葉の定義をいろんなコンテキストで考えてみて、子供たちの言語習得に対する考え方についても触れてみました。
次回は、バイリンガルになるための一歩を踏み出す前、バイリンガルを目指す理由について考えてみる時間を持つことで、長期的な目標を立てるための基礎を固めてみたいと思います。