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【バイリンガル②】バイリンガルになると何が良いの?私が考える一番の利点は

noanne

前回の投稿では一般的に考えられているバイリンガルの基準を振りかえり、赤ちゃんや小さい子供の言語能力とバイリンガルに育つために必要な努力について触れてみました。

今回の投稿では、バイリンガルになることがもたらす肯定的な影響、そしてその中でも私が思う一番の利点について書いていきたいと思います。

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  6. バイリンガル育児に役立つリソース(+)

一般的にバイリンガルを目指す理由

モノリンガルとして育った人が外国語を学び、バイリンガルになった人、またはこれから自分の子供をバイリンガルにさせたいと思う人はまず次のような理由を持っているのではないでしょうか。

  1. バイリンガルになると受験や就職に有利
  2. 家族メンバーに自分とは異なる言語を使う人がいる(子供は両方とコミュニケーションを取らないといけない)
  3. 家族で違う国に住むことになった(駐在・留学など)

①は自発的な要因、そして②と③は環境的な要因でバイリンガルを目指す必要性が出てきた場合です。

特に①の場合、選ばれる言語は英語が多いと思われますが、細かくみると一般的には次のような利点を理由にバイリンガルを目指したということが多いでしょう。

  • 国際的な友人やビジネスパートナーとスムーズにコミュニケーションが行える
  • 世界中の企業がグローバル化し、共通語である英語を話せる人材が求められているため、将来的に多様な仕事の選択肢が広がる
  • ネットや情報メディアは主に英語で提供されていて、学習や知識の幅が広がる
  • 英語圏の文学作品や映画、音楽など触れ、異文化理解が深まり、より豊かな人生を送ることができる

ただ、これらをできるようになるためには特に小さい時から長期的に時間、お金、努力をかけて英語を学ばなければならない訳ではないかなと思います。

大人になってからバイリンガルになっても、上記の利点は十分に堪能できるでしょう。

それでも子供の時から英語(もしくはその他の言語)のバイリンガルを目指す理由はどのようなものがあるのでしょうか?

バイリンガルを目指すのは持続的で長期的な努力と投資が必要で、中途半端に他人を真似していては欲しい結果に繋がらないことも多いので、最初から「なぜ」をはっきり認識することが大切なステップだと思います。

幼児期から外国語を学ぶことの利点

19世紀まではバイリンガリズムに対する考え方が今とは多く異なっていて、複数の言語を小さい頃から学ぶと言語発達が遅れる、子供に混乱が生じるなど発達にネガティブな影響があると思われていました。

逆に21世紀においてはバイリンガルになるとIQが高くなるなどの認知能力や社会の地位へのポジティブな影響が強調されています。

特に幼児期からの外国語を学ぶバイリンガルの子供は「脳の発達」と「言語学的発達」において優位とされています。

脳の発達

  1. 認知能力が向上する : 複数の言語を操られる子供は、それぞれの言語を使い分ける必要があるため、思考が柔軟で注意力が高い傾向があり、言語を切り替えることで、脳は認知的な柔軟性が伸びていくとされています。
  2. 実行機能がの向上する:バイリンガルな子供は、頻繁に言語の切り替えや制御を行うことによって、問題解決能力、判断力、情報の整理など、高度な認知能力がより発達します。
  3. 脳の構造が変化する:一つ以上の言語処理をするため、言語処理に関連する領域の密度や活動が増加し、特に前頭葉や側頭葉など、言語制御や認知制御に関与する領域がより発達します。

IQが高くなるというのは他の学習能力においてもポジティブな影響がありそうで確かに魅力的ですね。ただここには小さな落とし穴もあるようなので、その部分についても後で触れてみます。

脳の発達に関する部分ですが、これらは大人になってバイリンガルになっても同じような利点を得られるとされていて、幼児期からバイリンガルを目指すより直接的な理由の多くは下記に関連するものなのではないでしょうか。

言語学的発達

  1. ニューラルプラスチシティ: モノリンガルの場合、脳は外国語を聞くと自分の言語に近い音に変換してその音を受け入れます。結果、幼児期の場合脳がより柔軟で適応力がある状態であるため、異なる言語のニュアンスや特殊な音をカテゴリー化することなく、そのまま吸収できるようになります。
  2. 音素の意識: 脳は言語ごとに異なる音を簡単に認識・発音できるようにしていきますが、幼児期に複数の言語を学ぶと言語の音やイントネーションパターンに非常に敏感で、その言語特有のアクセントを模倣しやすくなリます。
  3. 模倣能力:赤ちゃんは常に音や声のパターンを真似しているため、自然に聞いた異なる言語の発音を模倣し、各言語の正しい発音を習得するのにより優れた能力を持っています。
  4. アクセントの軽減: 上記の能力を持つことで、各言語の発音のパターンを他の言語に干渉を減らすことができます。
  5. 第3、第4言語習得の容易さ: 幼児期から複数の言語を身につけると、音の領域が広くなり(よく耳が良いとされる)が発達し、新しい言語を容易に身につける傾向があると知られています。

幼児期に外国語を学習する大きな利点の一つが音に対する感度と言えそうです。

「You cannot make a sound that you cannot hear」と良く言いますが、正しく発音するためには正しく聞けることが必要ですよね。

そして、大人になって外国語を学習するとまずはその言語が持っている自然な発音やイントネーションを持つことが大変難しく、文法や語彙強くてもコミュニケーションが取れなかった、ということがあります。

頑張って外国語を勉強して練習してきても「ネイティブレベルではない」と判断されるポイントもここになることが多く、「強いアクセントさえなければ…」と思う方は多いと思います。

脳がまだ柔らかく、様々な音を特定の言語の自然な状態で認識できるのは明らかな利点です。

AI時代に認知と言語学的領域の優位性を超える外国語学習の最大の利点

でもこれらの機能的な側面はもしかするとテクノロジーの発展によってそこまで重要なポイントじゃなくなる可能性もあります。

私はずっと外資系で仕事をしてきていて、つい3〜4年前までは社内で日本語ができない外国人がいると業務遂行にかなり影響が出ていました。

資料を作ったら誰かが英語に直して伝えないといけないですし、会議に参加していたらそれを日本語に通訳するためのリソースを必ず取られてしまっていたからです。

しかし、最近はDeepLという翻訳サービスやchatGPTのお陰でその大変さもだいぶ軽減されています。

今では社内に英語しかできない外国人がいても以前のように本当に困ることは減ってきました。

英語ができなくても、その壁を乗り越えられるツールがたくさん出てきていて、幼児期からあれだけの努力とリソースを投資して英語を学ばなくても良い時代が来るかも?これからは英語を話せる利点はどんどん減っていくのではないか?と自問したこともありました。

そこで、皆さんに質問です。

皆さんはAIが全ての翻訳・通訳をこなしてくれる世界がきても英語を学ぶ利点があると思いますか?

バイリンガルになる最大の利点:社会性の発達

幼児期から第二言語を学ぶ、と考えた時、一般的には認知と言語学的領域の優位性が一番強調されます。

しかし、私はAIが精密に言語を操る能力を持つようになっても複数の言語を学ぶ利点が「社会的な発達」にあると考えます。

社会性発達の部分は、文化の理解や社会性の向上は外国語を学ぶ「付随的な利点」としか見られませんが、実はこれこそが一番大切で肝心な利点なのではないでしょうか。

一般的に子供が複数の言語を話せるようになると次のような利点があります。

  1. 共感能力の向上:一つ以上の言語を学ぶと自分が言ったことが誰かには必ず「通じない」という経験をすることなります。バイリンガルの子供は常に他者の視点や感情を観察する必要があり、その結果、自分とは異なる状況にある人に共感し、理解しようとする能力が高まります。
  2. コミュニケーション能力の向上:複数の言語を使い分ける経験は、子供が自分がどのように話をすれば相手に伝わるか、と言うシミュレーションを繰り返すように促します。そのため、状況に応じて柔軟にコミュニケーションを調整していく能力が付いたり、すぐに通じなくてもすぐにフラストレーションを感じることが減るようです。
  3. 多様性の理解:バイリンガルの子供は、常に異なる言語や文化が共存する状況に置かれているため、異なる背景や視点を持つ人々が存在することや、その人々と関係を築いくことを身につけられるようになります。

そして認知的、言語学的、また社会的発達の優位性が相まった結果として得られる、あることを私たちは常に覚えておかないといけません。

バイリンガルになる事よりも大切なもの

複数の言語を話すことで様々な人との関わりを持つというのは、自分とは異なる存在に対する理由のない恐怖心を減らしますし、他人と自分の失敗にも寛容的になりやすいです。失敗することを恐れないと、挑戦することも難しく感じなくなり、実際バイリンガル人はしばしばモノリンガルの人が持たない文化や社会的な経験の機会を得ることも多いです。

異なる文化やコミュニティに触れることは、様々な体験をする機会が増えたり、自分を多面的に見る機会も増え、人間は誰もが違いを持つ多様な存在、自分もその中の唯一な存在という健康な自我への認識を持つことになり、他人への尊重、自信と自尊心も向上に肯定的な影響が生じると言えます。

「他人と健康な関わりを持ちながら、失敗することに恐れず、自分を信じて生きていく態度」を育てられた肯定的な影響を受けて育ったバイリンガルの子供たちは自信と自尊心も高い傾向にあるのです。

おすすめ書籍
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アンジェラ・ダックワース

ここでバイリンガルを目指す上で最も重要な注意点の一つ話したいと思います。

ツールとしての言語習得は可能ですが、親御さんのアプローチによっては人間としては「本末転倒」な結果になってしまう可能性もあるということです。

いくらバイリンガルとして育てることができても、そうなるために誰かに比較されたり、英語学習を強要されながら育ってしまっては、バイリンガルになることで得られる強みを手にすることはできないということ。

つまり、脳の発達と社会性の発達において多くの利点 – 認知能力、脳発達の利点を享受するには、バイリンガル教育をする以前に、子供の人間としての発達が常に優先される必要があるというのを必ず覚えていてください。

この部分を理解せずに英語を学ばせ不自然な環境を強要された子供が様々な問題を抱えてしまうというのは幾度も聞いたことがありますし、バイリンガル子育てのデメリットとされる問題でもあると思います。

ツールとしての外国語を学ぶ以上にバイリンガルな環境で育つことは、子供の成長と発達において豊かな経験と素晴らしい可能性をもたらすということ、そしてバイリンガルになることよりも一人の人間としての発達が常に優先されなければならないというところまで納得して頂けましたでしょうか。

ここまでを理解し、どうせならバイリンガル育てるための時間と努力を投資していきたいとお考えの場合は、次の投稿に進み、その環境を整えるため家族の状況や環境に合った目標とプランを指標として立ててみる事で、最初の一歩を踏み出してみてください。

ABOUT ME
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noanne
18歳になるまでは海外旅行もしたことがないモノリンガル。英語は苦手だったが、その後自分に合う外国語学習法を見つけ、26歳には3カ国語話者になる。大学卒業後、外資でマーケティングの仕事を経て英語圏大学院でMBAを取得。現在はイラストレーターとして活動しながら3人の子供を育てる。6歳と4歳は日本語・英語がほぼ同じレベルのバイリンガル。
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